猫の室内飼育は現代の日本では猫の正しい飼育の形です。猫を外に出さないことは猫自身の健康や安全で穏やかな生活のために必要なことであり、また猫が他人の敷地や車、草花に被害を与えたりすることを防ぎます。屋外は猫にとって危険であり、感染症に罹ったり事故に遭うリスクがあります。また近隣の住民に猫が嫌いな人がいるかも知れません。猫は外に出すのが幸せだと考えている方々には、外に出すことによる大きなリスクを考えていただきたいと思っています。
ロシアンブルーのブリーディングを続けている中で、たくさんのヨーロッパのブリーダーと知り合う機会を得ました。私が育てているロシアンブルーはCFAというアメリカに本部を置く猫血統登録愛猫協会に登録されていますが、ロシアンブルーのヨーロッパのブリーダーの間ではCFAの血統の人気が高く、近年では良い成績を取っている多くの猫がCFA血統です。私も2人のヨーロッパのブリーダーに猫を譲渡しました。
アメリカのCFAのブリーダーは、私が知る限りでは全員が猫を室内飼育しています。しかしながらヨーロッパの多くのブリーダーたちはキャットガーデン、網や壁で囲われた猫用の庭を持っており、そこに現役の雄用の小さな家を建てて飼育していたり、昼間だけ猫を庭に出していたりとアメリカや日本とは異なるスタイルで猫を飼育しています。猫用の庭を持たずケージを利用できるアメリカや日本の飼育スタイルはヨーロッパの人たちにとっては動物福祉に反していると思えるのかも知れません。
私も最初はキャットガーデンをポジティブに捉えたのですが、色々な事実を知るうちに、私の猫を譲渡しても絶対に庭には出さないで欲しいと思うようになりました。
『感染症と安楽死』
ヨーロッパのある国に住むブリーダーBは、ヨーロッパ内の他の国に住むブリーダーCに猫を譲渡しました。ブリーダーCはその猫をキャットガーデンに出したり、他の雄猫と一緒に飼育したりとかなり自由な方法でその猫を飼育しました。ある日、ブリーダーBはCに譲渡した猫がカリシウイルス(猫風邪)のキャリアであり、Cがその猫を飼育し続けることができないので安楽死を検討していることを告げられました。日本では信じられないことですが、ヨーロッパの国ではケージが利用できないこともあり、恐らくこういったケースでも安楽死を検討するのだと思います。外界と接続している庭で飼育している限り、感染症は野良猫からもらってしまうこともあるので避けることはできません。カリシウイルスはワクチンがありますが、罹ることを絶対的に防ぐものではありません。
CはキャリアになったのはBの責任であると思っていたようでしたが、証明は難しく思います。
Bはその猫を引き取りたいと思っていましたが、ケージが使えないのでその猫を飼育する場所がなく、引き取ることができませんでした。
結局その猫は田舎の農場に引き取られ、外猫に近い状態で飼育されることになりました。
『キャットガーデンと死』
ある日ヨーロッパ圏に住むブリーダーから衝撃の事実を伝えられました。
「猫の庭に毒餌を投げ込まれ子猫や猫が複数死んでしまったので引っ越しをする」
私はあまりにも悲しくショックな出来事にすぐに言葉を返せませんでした。
ヨーロッパのブリーダーたちにキャットガーデンについて尋ねると、どの人も庭は安全で猫にとって楽しく素晴らしいものだと返ってきます。私はそれを何度聞いても信じることはできず、私が譲渡した猫については絶対に室内飼育のみにすること、庭には出さないことを契約していました。私は正しかったのです。
驚くことに、引っ越し先でもこのブリーダーはキャットガーデンに猫を出しています。
キャットガーデンの夢の世界はガラガラと崩れ落ちました。庭に出すことを否定する気持ちは高まり、ヨーロッパの人たちが何故こんな非現実的な飼育をするのか、称賛するのかが分からなくなりました。
キャットガーデンは外の世界とつながっていて、その外の世界には猫が嫌いな人もいるし、感染症も寄生虫もいる。安全ではない。
前から何度もお話ししていますが、猫は予防できる感染症が少なく、猫風邪はワクチンをしていても罹ることがあり、治療して回復した後にキャリアになることがあります。
猫を大切に思っているなら守ってやるのが普通ではないのでしょうか?
ヨーロッパの国の中にはスイスのように庭や外に出すことを法律にしている国もあります。出さないこともできますが、その場合は1匹で飼育することはできません。単独生活の動物である猫が他の個体と一緒に住まなければならない、そうでないと飼育ができないというのは驚きです。猫にとって良いことだとは思えません。スイスは日本では動物福祉の進んだ国として良い印象を持たれている方が多いと思いますが、現役の雄猫が部屋に一人でいることを許されない、友達が必要だというような幻想は猫を正しく理解していないと感じます。
実際に私はスイスに雄を譲渡しましたが、庭に出さないことを約束したためにその子の部屋には子猫だけが入れるような隙間を作り、お友達がいる、という状態を保持する必要がありました。もう1匹の雄猫は避妊した猫がルームメイトとして一緒に住んでいました。しかしこれは猫の生態としてはとても不自然です。避妊した猫が何故その雄猫のために生きなければならないのでしょうか。
動物福祉とは一体何なのか。
極端な考え方に酔って行き着く先に猫の幸せがあるとは思えません。
この記事へのコメントはありません。